【Mitsu's pick up -Global SCM News from JAPAN】電子カルテの共有化による医療サプライチェーンの効率化について
2023年8月、当時の岸田総理がマイナ保険証を巡る混乱への対応として記者会見を開き、デジタル化への決意を示された際に日本が「デジタル後進国」であるとの発言があり、話題となりました。医療業界においてもDX化は従前より課題となっており、その主たるものが電子カルテの共有化です。今回は医療DX、特に電子カルテ共有化に係る政府の取り組みおよび医療サプライチェーンの効率化について記述いたします。
初期の電子カルテシステムは施設内で完結しており、他施設との共有は困難でした。2000年代に一部自治体で医療情報の共有が試験的に導入されましたが、その動きが一気に加速したのが2011年の東日本大震災でした。沿岸にある多くの医療機関が壊滅的な打撃を受け、多くの医療情報が失われた結果、医療受診者の薬の情報、検査結果の確認が困難になりました。これを機に国が医療情報の遠隔地バックアップを推奨し、共有化の動きが進みました。
電子カルテの共有化により、患者データを共有する事で需要予測の精度向上が可能となります。具体例として、地域内でインフルエンザ患者が増加している場合に薬局や病院での迅速なワクチン確保に繋がったり、患者のリアルタイムデータを基に医薬品や医療消耗品の在庫管理を効率化する事が期待されます。また、災害時における物資供給の効率化や、パンデミック時に感染者数や症状の傾向を把握出来る事に繋がります。
一方課題として、規格の統一性の欠如が挙げられます。現在10数社を超える電子カルテのメーカーが日本に存在しますが、メーカーにより規格が異なっているのが実状です。現場の医療従事者からは、転勤となって職場が変わる度に操作方法を覚えねばならず、非効率的との声も挙がっているとの事です。これについては、※HL7 FHIRという国際規格に基づく記述仕様で文書を記載する様政府を中心に取り組みが進められている状況です。
現状日本においては電子カルテの共有化は完全な普及には至っておらず、標準規格の推進、システムの導入や運用にかかる費用、地方と都市部の格差、法制度の整備などの課題について乗り越える必要があります。少子高齢化が進行する中、医療DXは引き続き日本が推進すべき重要課題と言えます。
※HL7 FHIR:HL7(Health Level Seven International)という医療情報システム間の相互運用性を推進する国際標準化団体が推進する最新の標準規格。FHIRはFast Healthcare Interoperability Resourcesの略称。
<参考情報>
2024年1月9日 厚生労働省「電子カルテ情報共有サービスにおける運用について」001197924.pdf
<筆者>
長者原 光浩(ちょうじゃはら みつひろ)APICS CPIM, CSCP, CLTD、PMP
ASCM COMMUNITY JAPAN運営委員。総合ICTベンダに勤務し、グローバルサプライチェーンに14年間従事。22年からSAP基幹システム刷新のプロジェクトに参画中。