【Mitsu's pick up -Global SCM News from JAPAN】横浜港における国際海運の脱炭素化への取り組みについて
IEA(国際エネルギー機関)によると、国際海運からのCO2排出は世界全体の約2.1%を占め、世界経済の成長海上荷動量の増加に伴い何も対策を取らなかった場合、2050年迄に約7.0%にまで増加するとも言われています。その様な中、横浜市は国際海運の脱炭素化の取り組みである「ハンブルグ宣言」に署名し、官民の連携を通じてCO2排出削減に取り組んでいます。2024年の大きなニュースにもなった脱炭素化への取り組みについて紹介します。
世界海運大手であるAPモラー・マースク(デンマーク)は24年4月、横浜市において新造グリーンメタノール船”Astrid Maersk”の命名式を行いました。グリーンメタノールとは再生可能エネルギーから生成される水素等を原料とするメタノール燃料の事で、アンモニアと並び次世代燃料の本命とされています。従来型燃料の重油と比較し、CO2排出量を60~90%抑制できると見込まれています。これに先立つ2023年12月、横浜市・三菱ガス化学・マースクはグリーンメタノールの利用促進を目的として覚書を締結しましたが、協業の一環として24年9月には海上において補給船から燃料の補給を行う「バンカリング」の実証実験を行っています。この時には三菱ガス化学傘下の海運子会社が所有するケミカルタンカーを用いて、マースクの船舶に燃料補給を行いました 。この方法は「ship to ship」と呼ばれ、地上に大規模なインフラを整える必要が無い事から、実証化し易いとされます。
世界に目を転じると、マースクはグリーンメタノールの供給源として風力発電企業であるゴールドウィンド(中国)と世界初の大型契約を締結し、グリーンメタノール船舶12隻分の低炭素運航を実現可能とする道筋を付けました。同社は既に25隻のメタノール対応船を発注済との事です。
国際海運市場においては、脱炭素化を視野に重油に代わる次世代燃料としてグリーンメタノールの使用は既に始まっており、今後日本国内でもグリーンメタノール船舶の普及が見込まれます。日本が掲げる2050年でのカーボンニュートラルという目標に向け、今回の実証実験はその嚆矢としての挑戦、そして着実な一歩と言えます。
※グリーンメタノール:化石燃料を使用せずにつくられる環境負荷の低いメタノール。 従来のメタノールは石炭や天然ガス等の化石燃料を原料に製造されるため、その生産過程でCO₂が排出される。一方、グリーンメタノールはバイオマス(一般廃棄物や木のチップ等)や再生可能エネルギー由来の水素、更には工場から排出されるCO₂を原料として製造される。
※バンカリング:海上で燃料を供給する仕組みのこと。船舶同士で直接行うため、大規模な陸上施設が不要である点が特徴。
<参考情報>
2024年9月11日 日本経済新聞電子版「欧州マースク、次世代船舶燃料の補給実験 横浜で日本初 - 日本経済新聞 」
2024年1月11日 ASUENE MEDIA「グリーンメタノールとは?海運会社の脱炭素社会に向けた取り組み」
2024年10月8日 LNEWS「横浜市港湾局/国際海運の脱炭素化に関する「ハンブルク宣言」に署名 ─ 物流ニュースのLNEWS 」
2024年9月18日 三菱ガス化学プレスリリース「240918 」
2023年11月28日 ESG Journal「Maersk、船隊の脱炭素化を推進する過去最大のグリーン燃料契約に調印 - ESG Journal 」
2023年9月23日 国土交通省『「次世代船舶の開発」プロジェクト』
<筆者>
長者原 光浩(ちょうじゃはら みつひろ)APICS CPIM, CSCP, CLTD、PMP
ASCM COMMUNITY JAPAN運営委員。総合ICTベンダに勤務し、グローバルサプライチェーンに14年間従事。22年からSAP基幹システム刷新のプロジェクトに参画中。