「2024年問題」における輸送ルート最適化の事例について


 

 日本の物流業界が抱える「2024年問題」が露になって久しい。政府・企業の取り組みについて事例を交え述べてみたい。 

 周知の通り、2024年問題とは、働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題の総称の事である。この基準を超えているドライバーがいる事業者は全体の3割を占める。消費者が主に関わる「宅配」の配達員は全体の1割に過ぎず、主な当事者はB to Bのトラックドライバーにある。 

 政府は10/6の関係閣僚会議にて、「物流革新緊急パッケージ」をまとめあげた。主な柱としては、①「置き配」を選んだ消費者へのポイント還元策 ②鉄道や船舶へのモーダルシフト ③適正運賃への法制化 等が挙げられる。本稿では主に②に係る運送ルートの最適化について事例を挙げてみたい。 

 

 一つ目は新幹線・船舶での輸送である。6月には東北新幹線で、8月末には上越新幹線で実証実験がなされた。上りでは生鮮食品・清酒・生け花・精密機器等が、下りでは医療用医薬品・雑貨等が運ばれた。リストからも判る様に、高付加価値品を輸送対象とすることで、JR貨物との住み分けを図っているとの由である。 

 また愛媛県では、従来みかんを地元のJAから東京の市場までトラックで運んでいたが、愛媛の港でRORO船にトラックを搭載し、30時間の航海を経て千葉県の港に到着、東京へ届けるという取り組みを行っている。これによりトラックの実働運転時間が大幅に短縮されるとのことである。 

 

 二つ目は幹線ルートと地域ルートの分離である。秋田県トラック協会では2019年に物流事業者、荷主、JRなどに呼びかけ、農林水産物の物流を考える部会を設けた。部会ではJAを対象に集荷便と幹線便を分離し、県南部の拠点での積み替え作業をスタートアップ企業に受託して実証実験を進めた。2022年度までの実験によると幹線ドライバーの労働時間は約25%減少、一人当たり付加価値も約30%向上したという。 

 また熊本県では現在TSMCの工場建設が進んでいるが、折からの運転手不足に加え、高度なノウハウが必要とされる半導体の輸送を請け負うことの出来る企業も限られている。企業側としては人材育成により、運搬や据え付けの技能を数年かけて学ばせることを進めているという。 

 

 このように2024年問題には教育、福利厚生、賃金の適正化といったドライバーのための福祉施策以外にも、ルートの最適化、更にはそれを支える輸送管理システムの導入など複合的・多層的なアプローチが求められる。荷主・運送業者・政府自治体等全てのステークホルダーにとって、労働時間規制による影響・リスクを最小限に抑えつつ、サプライチェーンの組み換えを粘り強く継続することが求められている。 

 

 

<語注> 

※RORO船:貨物を積んだトラック・自動車ごと輸送する船舶。ランプウェイから直接船に乗り降りする事で、発着港での荷下ろしが不要となる。ROROはRoll-on, roll-offの略。(CLTDテキストより筆者抄訳 

 

<参考情報> 

2023年10月15日 日本経済新聞6面「物流2024年問題、対応急ぐ地方」 

 

 

<筆者> 

長者原 光浩(ちょうじゃはら みつひろ)CPIM, CSCP, CLTD、PMP 

 

ASCM COMMUNITY JAPAN運営委員。総合ICTベンダに勤務し、グローバルサプライチェーンに14年間従事。22年からシステム開発のプロジェクトに参画中。 

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